思い思いに語るフリースタイルの座談会は、いよいよ名栗の話へ。
入社のきっかけになった名栗のこと
大工の合田は昨年より名栗加工を覚えて、tayutau-HUTや近々竣工する木蓮舎で、加工した名栗の板を採用されました。橘商店さんは、この名栗を手作業で加工する全国的にも数少ない材木屋さんです。
合田 :
今日は名栗のこといっぱい聞きたいなと思っているんですけど
石牧 :
なんで「名栗」を知ったの?
合田 :
僕が建築学校に行ってるときにOBの先輩とかが手斧(ちょうな)が好きで、使っているのを見て「あ、面白そうだな」と思って色々調べたら、橘さんのホームページを見て。
橘社長 :
「名栗」って検索したら専門でやってる業者そんなに居てないからね。ちなみに今何年目?
合田 :
大工歴は4年目です。
橘社長 :
大工4年?で、石牧建築は何年?
合田 :
2年目です。前の2年は愛知県の工務店で大工やってました。
石牧 :
地元がもともと浜松でね
橘社長 :
なんでそこの工務店に行ったの?
合田 :
「削ろう会」が好きで、学生の頃に学生チャンピオンになったら会社いれてやるよってなって
橘社長 :
で、なったん?
合田 :
はい。もう死ぬ気で練習して。
橘社長 :
だから斫りかて、ちょっとやっただけでセンス良く。俺見たとき、ほんま誰がやったやろなって思ったもん。
合田 :
まだまだほんとに
橘社長 :
そんで、結局石牧建築になんで来たん?地元に戻ってきたのか。
合田 :
そうですね。地元に戻ろうって思って、ネットとかで調べてたら、たまたま親の知り合いの家を建ててたのが石牧建築で
橘社長 :
あ、そうなん?
石牧 :
そうなんですよ。僕は彼が入社してから、そのお客さんから電話もらって知ったんですけど。
橘社長 :
そんで、石牧建築来て、手斧はなんでやり出したの?
合田 :
もともとやりたかったんですけど、前のところでは名栗をやる機会がなくて、石牧建築に入ったきっかけにもなるんですけど、施工事例とかホームページで見たときに、「名栗の六角の柱使ってる。あぁ、名栗とかやれるかもしれない」って感じであわよくば思ってたりしたんですけど
石牧 :
あぁ、そうなんだ?僕はでも休憩時間にいろいろ話すじゃん。そういうとき、こういう刃物持ってきて一生懸命研いでてさ、「買っちゃいました♪」って自慢してて。そのとき打合せしてたtayutau-HUTのお施主さんが「藤森さんの秋野不矩美術館みたいな、ちょっと荒々しい感じの建具にしたい」って言ってたから、それじゃ武ちゃんにやってもらおうって思ってさ。ちょっと仕上がりが粗くてもちょうどいいかなって思ってたら、出来上がってきたものが、めっちゃうまいじゃん。
橘社長 :
いや、むっちゃ上手やったと思ったよ。上手な中でもほんまにいいやつをギャラリー側の方にしたの?
石牧 :
というか、板の幅に対してのバランスで、こっちで揃えた方がかっこいいかなって。
橘社長 :
でも、やっぱり板みたいに薄いのは斫るの難しいでしょ?
合田 :
そうですね。薄いと結構逆目が立ちやすんで、厚みがあった方が手斧がしなって斫りやすいですね
橘社長 :
六角とか八角とか、角の方が多分やりやすいと思う。幅が広いより狭い方がやりやすいから。あと、なるべく木目が揃ってた方がやりやすい。結局、名栗するのも、いい材料の方が仕事しやすいねん。安いもので目粗なもの買ったら、時間もかかるし、出来も悪くなるから。値段てさあ、買ってしもたら、もう終わりやん。でも、ずーっと見るもんてのは、良し悪しは残っちゃうやんか。で、なんか買ったとき安いとか高いとかよりも、あの木反ってきたとかって後で思うんやったら、いいもん選んだ方がいいと思う。安くても高くてももう買うてまったら一緒やもん。
石牧 :
安かったことを忘れちゃうんですよね
橘社長 :
そやねん(笑)
石牧 :
名栗ってそもそも、この辺ってないんだよね。
合田 :
やっぱり関西ですよね。
橘社長 :
もともとは京都が発祥やから。それこそ何百年も前に京都の丹波の方で、職人さんが山から町に下ろすときに皮とかを斫ってたのが初めやから。
石牧 :
やっぱり、浜松にはない文化が関西にはあるなっていうのは、肌で感じるよね。すごくいい刺激になるけど、別にそれを真似するんじゃなくて、それを持ち帰って新しい浜松の文化をまた作るとかね(笑)
京都発祥の名栗がそこから派生して広まっていったのと同じように建築もそうだと思ってて、発祥というか元の地から職人さんが来てそれを伝えて形になっているみたいなのが多分あると思うんだよね。
合田 :
多分そうっすね。手斧の形も地方で違ってて。開発されてるんですよ。
石牧 :
そうか。見よう見まねで地元の鍛冶屋さんとかが作ったりしたってことか。
橘社長 :
あと、名栗するんやったらちゃんとした台がないと出来へんで。動かへん台さえ作ったら、あとは高さ調整して、挟めるのがあればいいけど、ていうかうちの作業台ももうちょっと快適なの作り直してほしいくらいやわ。
石牧 :
台はね、作れますよ、大工だから(笑)
合田 :
そうっすね。あと、名栗の技術的な話も聞きたいんですけど
橘社長 :
技術面やったら、ここではちょっと。うちの会社一回来たら?
合田 :
是非!
橘社長 :
うちのおとんの仕事見ながら説明してもらったらええよ。だって作業台でしかできへんから。それでええ?
合田 :
僕はありがたいです!
石牧 :
いやぁ、だって行きたいって前から言ってたもん。もう是非、よろしくお願いします。それじゃあ、今度は銘木市場と橘さんとこ研修しに行こうか。この前ナベちゃんは市場行ったけど、武ちゃんはまだ行ったことないから。
橘社長 :
市場もさ、市場で買うとかじゃなくても、見るっていうのは大事やと思う。そんならまた新しいインスピレーション沸くかも知らんし。閉じこもらず、外に出ていろいろ知るのは大事やで。
石牧 :
インスピレーションは沸くね。全然関係ないけど、僕ら最近YouTubeやってて。僕はそういう新しいことやるの好きなんですよ。彼と琢海くんはまだ20代で、まだ大工人生始まったばっかりで、これから先40年くらい仕事していくわけじゃないですか。今、YouTubeで二の足を踏んでるようじゃ、次の時代どうなるか分からないのに、だめだなって。
橘社長 :
そうかぁ。もう僕らは40代やんか。40代ってある程度先が見えてきてるもんね。
石牧 :
惰性で転がってくこともできるというか。だけど、こういうこともチャレンジしてやったよ、っていう経験がこの先どう転ぶか分からないし、どんな風になってもこの先築いていかなきゃなんないから、「よし!YouTubeやるぞ!」ってすぐやって、すぐ形にしていく。もう訓練みたいなものだと思ってて。例えば、大工の刃物系なんて興味ある人いっぱいいるから、僕より彼らの方がどんどん有名になったらいいな、と思って。セルフプロデュースだから、好きなことどんどんやればいいよ、って。
橘社長 :
最近思うのは、なんか偉そうなこと言うわけちゃうけど、もっとやる気のある若い大工とか木工家とか育てるのが材木屋ちゃうかな?ってずっと思ってて、たまたまやけど、最近20代の子と出会うことが多くて、それこそまだ先が長いから、そりゃあ是非とも協力したいなってめちゃくちゃ思うもんね。やっぱり育てなあかんねんな。
石牧 :
まあ、自分たちも年配の人たちから教えてもらったり、チャンスもらったりして今があるから、何が正しいか分からないけど、今ある環境でチャレンジしたいことはどんどんチャレンジしたらいいと思って。みんな結構個性あるからね。
* * *
名栗という加工技術も、はるか何百年も以前から代々人から人へ紡がれてきたもの。
山から里へ、山守の人の手から、製材する職人さんたちや大工の手を経て、みんなの心地いい家として姿を変える山の木。
どちらも時代や場所を超えて繋がっているのは「人の思い」なのかもしれません。
真っ当で本物の木の家を建てるということは、たくさんの人の思いがひとつになって初めて叶う奇跡のようなものなんだろうな、と感じました。
SPECIAL GUEST |
---|
有限会社 橘商店 |